「あっ、見えた! あれがベニオウの木だよ!」
ブルーフロッグがいっぱい居た川から離れてしばらく森の中を歩いてると、遠くの方にベニオウの木が見えてきたんだ。
だから僕、そっちの方を指さして、ロルフさんたちに教えてあげたんだ。
「あれがベニオウの木じゃと? ふむ、確かに異常なほど育っておるのぉ」
「私は実物を見るのが初めてなのでよく解りませんが、それほどですか?」
「うむ。森の入口近くに生えておるものと比べると、高さも幹の太さも段違いじゃ」
まだベニオウの木は遠くにあるんだけど、それでもその大きさは解るよね。
だからロルフさんは、自分が知ってるベニオウの木とは全然違うんだよってバーリマンさんに教えてあげてるんだ。
でね、そんなお話をしてる間にベニオウの木まで到着。
さっきの川岸と違ってここは森の中だから、木の根っ子や背の高い草とかがあってそのままフロートボードを消すと危ないでしょ?
と言うわけで台が動かないようにみんなで押さえてる間にロルフさんたちには降りてもらって、僕はフロートボードの魔法を解除したんだ。
「しかし、近づいてみるとその異様さがよりはっきりとするのぉ」
「確かに普通の木とは何か違う気がしますわね。幹も左右にぶれることなくまっすぐ伸びているし、それに表面はつるつるして、まるでどこかの神殿にある柱のようですわ」
寄り道はしたけど、ロルフさんたちはこのベニオウの木を調べに来たんだよね。
だから台を下りると、二人はさっそく木のそばに行って観察を始めたみたい。
「うむ。柱にするために枝打ちなどの人の手が入っているのならともかく、普通に生えておる木がこのようにまっすぐ伸びておるのはめずらしいのぉ」
「そうなの?」
「うむ。ここは森の中じゃから、日の光がよく当たらぬ。じゃからこのような場所に生えておる木は、少ない日の光を少しでも多く浴びられるようにとどうしてもどちらかの方向に枝や幹の生える方向が寄ってしまうはずなのじゃよ」
柱にするような木はね、あんまり近くに植えないようにしたり、途中の枝を切って日の光が十分に入るようにするんだって。
だからそう言う木はちゃんとまっすぐに生えるんだけど、ここはそんな風にして無いから木も草もぼうぼうなんだよね。
なのにこのベニオウの木は、人が建てた柱みたいにまっすぐ立ってるから不思議なんだよってロルフさんは言うんだ。
「そっか、普通はお日様が当たんないと困っちゃうもんね。このベニオウの木は魔木ってやつだから、お日様が当たんなくてもまっすぐ育ったのかなぁ?」
「魔木? ルディーン君、それは一体何の話じゃ?」
あれ? そう言えば僕、ベニオウの木が魔木だって事をロルフさんに話してなかったっけ?
そう思った僕は、このベニオウの木は魔物みたいに魔力溜まりの影響で変質した魔木ってやつなんだよって教えてあげたんだ。
「なんじゃと! するとベニオウの木は、普通の植物とは違うと申すのか?」
「うん。この木になってるベニオウの実が普通のよりおっきかたから何でだろうって思って、鑑定解析で調べたらそう出たんだよ」
「なんと。実ではなく、木そのものが特殊じゃったと言うわけか」
「まさか、植物にも動物のように変質する種があったなんて……」
ロルフさんたちは、僕の話を聞いてすっごくびっくりしたみたい。
どうやらベニオウの実が普通の果物と違ってるってのは解ったけど、それは薬草や何かとおんなじで、ただ魔力を吸収しやすい成分が多く入ってるだけなんだろうって思ってたみたいなんだ。
でもね、木そのものが普通の植物じゃないってなると、話が大きく違っちゃうそうなんだ。
「現地に足を運んで正解じゃったな」
「ええ。それに教えてもらえて助かりましたわ。もし知らずにいれば、この辺りの薬草などを調べただけで満足して帰ってしまっていたでしょうから」
ロルフさんたちも魔木なんてもの、僕がさっき教えてあげるまで知らなかったんだって。
だからさっきまではベニオウの木の状態を調べたり、その近くに生えてる薬草を持って帰って普通のとはどれくらい違うのかを調べるだけのつもりだったそうなんだ。
でも魔木なんてどんな本にも載って無いから、今はベニオウの木そのものを調べなきゃって思ってるみたい。
「とりあえず枝と葉はサンプルとして持ち帰らねばならぬな」
「ええ。このベニオウの木が、森の入口近くの木とどう違うかを知らねなければいけませんものね」
そんな訳で、ロルフさんとバーリマンさんは、錬金術ギルドにいた時みたいに二人でお話し合いを始めちゃったんだ。
「おい、ルディーン。早く柱を立ててくれよ。そうしないと何時までたってもベニオウの実を採りにいけないぞ」
「解ったよ、ディック兄ちゃん。すぐ作るね」
ロルフさんたちはお話がすむまでずっとあのまんまだろうから、その間に僕たちはベニオウの実を採る事に。
階段を壊して箱を作った時に残った石がベニオウの木の横に置いたままになってたから、僕はそれにクリエイト魔法をかけて必要な分だけ小分け。
そしてそれをお父さんに持ってもらって、柱を立てるとこまで運んでもらったんだ。
「それじゃあ作るね」
でね、僕はその石と木の根っこの間にある土を材料にクリエイト魔法を使って直径5センチくらいの柱を作り、その根元もちょっと深くまで固めて固定したんだ。
こうしとかないと、もし登ってる時に倒れちゃったら危ないもんね。
「おい、ルディーン。この柱、ちょっと太くないか?」
「うん。もっと細い方が登りやすいと思うけど、折れちゃったりしたら危ないからこれくらいないとダメなんじゃないかなぁ?」
ディック兄ちゃんは太すぎるって言ってるけど、これだって階段を作った時のよりも細いんだよ。
それを教えてあげたらディック兄ちゃんは、それじゃあ仕方ないねって。
でもね、今度はテオドル兄ちゃんが、これじゃダメだよって言うんだ。
「なんで?」
「さっき下の方の枝の実は、みんなで採ってしまっただろ? この長さじゃ、あまり多く採る事ができないじゃないか」
「あっ、そっか」
僕、枝が生えてるとこまで柱を作る事ばっかり考えてたから、そこに実があるかどうかなんて見てなかったんだよね。
でもテオドル兄ちゃんが言ってる通り、さっきみんなでいっぱい採ったんだから、もっと上の方まで伸ばさないとダメだった。
と言うわけで柱を延長する事に。
もともとの石の量だとこれ以上延ばせないからって、お父さんにもういっぺん石を運んでもらって、僕は後2メート来るらい石の柱を伸ばしたんだ。
「これでいい?」
「ああ、これなら多分大丈夫かな」
テオドル兄ちゃんがこれでいいよって言ってくれたから、柱作りはこれで終わり。
次はいよいよベニオウの実を採りに木に登る番だ。
「それじゃあ、登ろ!」
「ちょっと待て。ルディーンはここでお留守番だ」
問うわけで、早速採りに行こうって思ったんだけど、そしたらディック兄ちゃんが僕は登っちゃダメって。
「え〜、何で? 僕だってこれくらいの柱、登る事できるよ」
「確かに、ルディーンなら登る事はできると思うぞ。でも、登れたとしても実を採る事はできないんじゃないか?」
「朝と違って足場が無いからね。上を見てごらん。ルディーンの大きさだと、あの太い枝に登っても他の枝まで手が届かないんじゃないかな?」
お兄ちゃんたちにそう言われて上を見てみると、確かに柱で登ろうって思ってる太い枝からベニオウの実がなってる枝まではちょっと離れてるんだよね。
そりゃあ中には僕でも届きそうな枝もあるよ?
でも、そこについてるのは2〜3個だけだし、それしか採れないのに一緒に登ったら確かにお兄ちゃんたちの邪魔だ。
「なっ、解っただろ? だからルディーンはお留守番だ」
「ちぇっ」
「そう拗ねるなよ。それにあそこで話をしてる二人、それが終わったらルディーンに手伝って欲しいって言いだすんじゃないか?」
「そうだぞ。そんな時にお前が上にいたら困るだろう?」
「そっか。ロルフさんたちのお手伝いもしなきゃいけないんだった」
魔木を知らなかったんだから、それをどうやって調べるのも当然知らないよね?
だったらきっと、僕に鑑定解析で調べて欲しいって思うんだ。
「解ったよ。僕、下でお留守番してる」
「おう、それじゃあ俺たちは採ったベニオウの実を袋に入れて下すから、お父さんと一緒に下で受け取ってくれ」
「ん? 俺も留守番なのか?」
だから僕は登るのをあきらめたんだけど、そしたら今度はお父さんもお留守番だよって言われてびっくり。
でもね、お兄ちゃんたちは当たり前じゃないかって笑うんだ。
「だって、さっきルディーンが言ってたでしょ? 石の柱が折れたら危ないって」
「そうそう。俺やテオドルならともかく、お父さんだと重さで折れるかもしれないじゃないか。だからルディーンと一緒に下でベニオウの実を受け取る係ね」
お父さんは大人だし、それに筋肉もいっぱい付いてるから太ってるわけじゃないけど重いんだよね。
だからそんなお父さんが登ってもし柱が折れちゃうと困るから、僕と一緒にお留守番なんだってさ。
「それに、多分もう少ししたらルディーンは受け取る係ができなくなるでしょ? だったら誰かが残らないと」
「そうだな。それじゃあ、俺も下に残るとするか」
こうして僕たちはそれぞれの役割を決めて、ベニオウの実を採り始める事になったんだ。
ロルフさんたちもやっとベニオウの木が魔木だと知る事が出来ました。
ただ、そのせいでルディーン君がこの二人の手伝いをしなければいけなくなりそうですが。
でもまぁ、こんなところに連れてきた時点で、遅かれ早かれそうなっていたでしょうけどね。なにせベニオウの木だけじゃなく、この近くにはいろいろなめずらしい薬草がかなり生えてますからね。
それらももちろん摘んで帰る事になるのですが、目の前に調べる事ができるルディーン君がいて、それを変えるまで我慢できる二人でもなさそうなので。